糖尿病と認知症 最近の話題

 高齢者の認知症が増加しています。日本では高齢者(65歳以上)の15%に認知症がみられます。認知症には至らなくても、記憶障害などの脳機能が少し低下した状態(mild cognitive impairment:MCI)もほぼ同時にみられ、すでに800万人以上の認知機能障害を持つ高齢者が存在しています。

 糖尿病では成年期~高齢期を通じて認知症のリスクがあります。糖尿病は脳血管障害の危険因子であり、血管性認知症(VaD)との関連は理解しやすいでしょう。糖尿病ではアルツハイマー型認知症(AD)の発症率も約2倍高くなります。認知症が進行すると、糖尿病治療にも多くの問題が生じるため、成年期から認知症予防を考えた糖尿病治療を行いましょう。

 糖尿病に認知症の合併する機序として、遺伝的な要因に加え、高血糖、低血糖、脳血管障害、高インスリン血症が促進的に働き、AD、VaDの危険性を高めると考えられています。高インスリン血症は、アミロイド代謝異常に直接関連するといわれ、意識障害をきたすような重症低血糖は、認知症のリスクになります。低血糖と認知症の関係で重要なことは、認知症があると逆に低血糖のリスクも増加することです。つまり脳機能が低下した高齢者糖尿病では低血糖の危険性が増加し、さらに認知症リスクが高まります。高血糖は、HbA1cが1%増加すると認知症のリスクが約1.5倍に高まるとの報告があります。また、血糖の変動が大きいと、認知機能は低下します。

 これまでADは高齢者の病気と考えられてきましたが、脳内の病理変化は、認知症発症の約15年前から始まっていることが明らかになってきました。中年期から認知症発症予防を考えた治療を行います。糖尿病治療をきめ細かく行い、HbA1cを適正に管理すると、認知機能の悪化が抑制されたという報告があります。血圧や、脂質異常など動脈硬化の危険因子を包括的に治療することも重要です。75歳以上の高齢者糖尿病では、HbA1c7.2~7.6%では発症リスクが最も低かったということです。

 元気な高齢者ではHbA1c7.0±0.5%、要介護状態には至っていないが種々のストレスにより容易に生活機能が低下しやすい場合には8.0±0.5%を目標値とするとよいと考えられています(日本糖尿病学会・日本老年医学会のガイドラインも参考にしてください)。

 認知症を起こしやすい要因として、糖尿病のほかにも高血圧や喫煙、うつがあります。一方認知症を抑制する因子として、学習(脳の活性化)、食事や運動の効果が知られています。運動は特に重要で1日50分くらいの運動が推奨されます。「運動は健康寿命を延長するマルチビタミン」ともいわれます。モチベーションを高めて維持していきましょう。