「うつ病」、「うつ状態」、「抑うつ状態」のあれこれ

臨床的には未だに、「うつ病」、「うつ状態」、「抑うつ状態」といったさまざまな言い方がされています。「うつ状態」と「抑うつ状態」というのは基本的には同じ意味で、「うつ病」とは言えないまでも、ある程度精神的なエネルギーが低下し、「うつ病」の症状がいくつか認められる状態をさしています。重い抑うつ状態が長く続いて、苦しい思いをしたり、生活に支障が生じたりしている場合に「うつ病」という表現が使われてきました。

うつ病の症状を考えてみると憂うつ、もの悲しさ、絶望感、気分の落ち込み、沈みこんだ気持ちが長く続いて苦しんでいます。自分に価値がないという思いが強くなり、ささいな出来事についても自分を責めるようになります。思考力や集中力が低下したと訴える人も多く、深く考えたりテキパキ決断したりすることができなくなり、新聞や雑誌を読んでも内容が頭に入ってこなくなるといい、物事に対する興味や関心が低下し、何もしたくないし、するのも億劫、無理にやってみても楽しめないという経験をします。そして、その結果、自分の世界にこもるようになり、社会活動や人間関係にも支障が現れるようになっていきます。周囲の人がこの状態にある人をみると、全体のエネルギーが低下して、全体に動きが緩慢で生き生きとしていないようにみえます。このような症状ならば誰もが経験するのではないか、と思われるかも知れません。

悲しいことが起きたとき、つらい思いをしたとき、誰もが抑うつ的な状態になります。病気と正常範囲の「抑うつ状態」とはどのように区別するのか、という疑問がわくでしょう。結論を先に述べますと、症状が重く、かつ症状のために障害が生じている場合に、病気と判断します。精神状態の重さはその症状の数と持続時間とで評価します。

診断は簡単そうですが、その症状が「ある」とするか「ない」とするかは、客観的には測定できないので、医師の経験に基づいて判断することになります。