心身医学シリーズその16 ~心身医学とは~

これまでのシリーズの中で述べてきた心身医学のあれこれは、ひとまずお休みして、心療内科のことを知りたいという初めての人たちのために、心身医学シリーズを再スタートしてみたいと思います。

心身医学(PSM)は、かつて精神身体医学と称されていましたが、患者を身体面とともに心理面・社会面・生活環境面をも含めて、総合的・統合的にみていこうとする医学をいいます。

「心身医学的」という言葉を最初に用いたのはドイツの精神科医ハインロート(1818)で、睡眠障害についての論文の中であると言われています。

近年における身体医学中心の流れの中で、現在の心身医学が誕生し、学問的な基盤ができてきたのは20世紀に入る頃からで、とくにフロイト、ダンバー、アレキサンダー、キャノン、パブロフ、セリエといった先駆者たちによる心身相関についての研究成果や学問的な啓蒙活動によるところが大きいです。

心身医学の歴史と発展をみると、3つの時期に分けられ、1期は、神経症についての心身相関の研究と診療がなされた時代。2期は、心身症が研究や診療の対象になった時代。

しかし、心身医学が本来目指す理念から、心身医学の対象は神経症や心身症といった狭い領域に限定されるべきでないという見解のもとに、現在は3期ともいえます。

臨床各科の疾患一般について、心身両面から総合的・統合的に病状をとらえ、全人的な医療を行う方向に発展しつつあります。このように現代の心身医学が誕生し、発展を遂げたのにはいくつかの要因が考えられます。

第1に、精神分析ないし精神力動理論、学習理論、行動心理学などによって、複雑で微妙な人間の心や行動に対する理解への手がかりが得られるようになったこと。

第2に、精神心理学や脳の科学の進歩などにより、人間の心の座である脳の働きや、心身相関のメカニズムについて、科学的・実証的な裏付けが得られるようになったこと。

第3に、心身両面から総合的に病状を理解し、病気よりも病人を中心とした全人的な診療の在り方を目指すようになったこと。

第4に、時代の変化とともに、疾病構造も大きく変貌し、伝染病や感染症よりも生活習慣病・老年病・慢性疾患が増加し、また心理社会的ストレスによる心身の障害が増加しつつあることが挙げられます。

現代の心身医学は、身体面・心理面・社会面における相互作用についての、科学的な研究成果を確立することを志向するものといえます。